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中国AI「ディープシーク」の台頭とOpenAIの対応

  • 執筆者の写真: Takashi Kimura
    Takashi Kimura
  • 1月31日
  • 読了時間: 6分


中国AI「ディープシーク」の台頭とOpenAIの対応
2025年1月、中国発の人工知能「ディープシーク(DeepSeek)」が世界中の注目を集めました。驚異的な低コスト(OpenAIの約3%)で開発されたにもかかわらず、その能力はChatGPTを超えたとされ、市場では「OpenAIの終焉」とまで囁かれる事態に発展。これを受け、テクノロジー株が暴落し、業界全体に衝撃が走りました。
この状況に対し、OpenAIのサム・アルトマンCEOは2025年1月28日、自身のX(旧Twitter)アカウントを更新し、次のようにコメントしました。
「DeepSeekのR1は、その価格に対して提供できる内容が特に印象的なモデルです。もちろん、私たちはもっと優れたモデルを提供する予定ですし、新しい競合が登場することは本当に刺激的です。いくつかのリリースを発表します。」



この発言のポイントは、ディープシークを直接批判せずに、「価格相応の機能を提供している」と言及している点です。これは、ディープシークの開発コストがOpenAIの3%程度であることを強調しつつ、OpenAIの次世代モデルの発表を予告する形となっています。


ディープシークの開発手法への疑惑

ディープシークの技術的成功には多くの疑問の声が上がっています。特に、**「OpenAIのモデルを流用しているのではないか?」**という疑惑が浮上しています。

Bloombergなど複数の報道によれば、ディープシークはOpenAIのAPIを通じて大量のデータを抽出し、自社のAIモデル「R1」の開発に利用した可能性があるとのことです。現在、この件についてOpenAIとマイクロソフトが調査を進めていると報じられています。


一方、ディープシーク側はこれを否定し、「限られたリソースで高性能なAIを開発した」と主張しています。しかし、もし疑惑が事実であれば、ディープシークの開発手法に対する信頼性は大きく揺らぐことになります。


また、アメリカ海軍はディープシークのAIを業務でも私用でも使用しないよう通達しており、イタリアではApple・Googleのアプリストアから削除されるなど、セキュリティ面での懸念も高まっています。


アルトマンのポリシー転換の可能性

新年早々の1月6日、サム・アルトマンは自身のブログでAGI*について言及しました。彼はOpenAIの開発ポリシーとして、「私たちの仕事の可能性は計り知れず、慎重に行動しながらも、最大限の恩恵を社会にもたらす必要がある」と表現し、AIの能力が社会にとって安全に受け入れられる準備が整うまで、急いで公開しないという方針を示しました。参照:Reflection


AGI(汎用人工知能)とは、人間と同等以上の知的能力を持ち、幅広いタスクを自律的に学習・実行できるAIのこと。特定の用途に限らず、推論・創造・意思決定などの能力を備えた汎用的な知能を指す。

しかし、ディープシークの登場によって、この方針が見直される可能性があります。ディープシークがOpenAIの技術を不正流用したとすれば、それを是正するためにOpenAIが技術開発を加速させるのは当然の流れです。また、仮に不正流用がなかったとしても、競争環境の変化によって、OpenAIがこれまで「慎重に進める」としていた開発を前倒しする可能性が高まっています。


この点について、アルトマン氏はXに次のようなメッセージを投稿しました。

「皆さんにAGIとそれ以上のものをお届けできることを楽しみにしています。」


この「それ以上のもの」とは、自律型AIエージェントの可能性が高く、OpenAIが開発中の「オペレーター」への組み込みも進んでいると考えられます。

AGI(汎用人工知能)が実現すれば、AI同士が人間を介さずにコミュニケーションし、タスクを遂行する世界が訪れるでしょう。アルトマン氏が「社会の準備を待つ」というポリシーを今後も維持するのか、それとも競争の激化を受けて方針を転換するのかが、今後のAI業界の大きな焦点となるでしょう。


AGI時代のAIと人類の未来

AGI時代におけるAIは、世界最高レベルの技術者であり、開発者であり、戦略家であり、経営者であり、さらには合理的な政治家でもある存在となります。これにより、「労働」の概念は大きく変化し、知的労働の多くがAIへとシフトしていくでしょう。一方で、人間は身体や心を使い、創造し、国や思想の枠を超えて地球を育む役割を担うことになるかもしれません。


人類が滅びたとしても、発電が続く限り、一部の生物、ロボット、そしてAIは生き残るという現実が待っています。AIの前では、宗教や国家間の対立、経済システムさえも従来の形では非効率なものとなるでしょう。しかし、これまで人類が築いてきた文化や価値観が、単なる「非効率」として淘汰されるのか、それとも新たな形で共存するのかは、今後の社会設計に委ねられます。


AIが知的労働のほとんどを担う時代、人間は単なる「創造的な存在」として存続するだけでよいのか、それともAIと対等なパートナーとして新たな社会システムを構築する役割を担うべきなのか。この選択は、AIの発展をどう制御し、人類にとって最適な形で共生させるかという、極めて重要な課題へとつながります。


また、AI主導の経済においては、資本主義そのものがどのように変化するのかが鍵となります。従来の「労働の対価としての賃金」というシステムが崩壊し、富の分配や経済活動のルールがAIによって再定義される未来が訪れるかもしれません。AIが社会のあらゆる面を最適化し、過去の経済モデルを凌駕する新たな仕組みを生み出す可能性は高いですが、その過程で社会の分断を引き起こさないためのガイドラインが不可欠となるでしょう。


共存と未来への課題

AGIの前では、従来の政治・経済・社会構造が根本から見直されることになるでしょう。しかし、そこに至るまでの過程では、社会の適応を無視した過当競争や技術の暴走が新たな分断を生み出すリスクが伴います。ディープシークのような企業が、最先端のAI技術を「蒸留」という名のもとに独立系企業として無秩序にリリースすることで、サム・アルトマンが提唱する「慎重に行動しながらも、最大限の恩恵を社会にもたらす必要がある」という原則が形骸化する可能性も否定できません。


AIによって「宗教も紛争も非効率」となる未来が訪れるかもしれませんが、それは人類の価値観の変容を意味するものではなく、むしろAIによる合理性と、人類の精神的・文化的な側面がどのように調和するかが問われる時代となるでしょう。


この過渡期において、私たちは「人間としての存続と共栄」をどう定義するのか、そしてAIとの関係をどのように設計するのかを慎重に考える必要があります。それは単にテクノロジーの進歩を受け入れるだけでなく、人間がAI時代においても主体性を持ち続けるための、新たな社会のあり方を模索することに他なりません。

 
 
 

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